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国連フォーラム 国連職員NOW! からわかること<2021年3月>

国連フォーラム 国連職員NOW! からわかること

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(2021年3月)

国連フォーラムは、2006年から現在まで14年間にわたり、様々な国際機関・組織で多種多様な職務に就くあらゆる年代の邦人職員174人にインタビューし、その内容を「国連職員NOW!」としてウェブサイト上で公開している (http://www.unforum.org/unstaff/index.html)。これは国連職員のキャリアパスの事例を知るための貴重な資料集である。そこで本稿では、国連フォーラムの許可をいただいたうえで、全体を通して浮かび上がる職員像、キャリアパスといったものを探ってみる。(2021年3月現在、すでに引退された方、転職された方もあり、必ずしも現職を反映しておらず、邦人職員全員を網羅しているわけでもない。)

<174人のインタビュー当時の勤務先>

注:UNはPKO, UNIC, UNMASを含む。

OthersはIOM, CTBTO, UNCRDを含む。

<国際機関で最初に採用された際の採用形態>

上記のグラフは最初に採用されたときの採用形態を示すものであるが、174人中14人がUNV(UN ボランティア)からJPO (Junior Professional Officer)へ、JPOからUNDPのLEAD (Leadership Development Programme)、JPOから競争試験(現Young Professionals Programme[YPP]) へ、というように複数の枠組みを使ってキャリアを積んでいる。いまも昔もJPO制度は比較的安定したキャリアパスのひとつであり、国連の基金やプログラム、専門機関ではJPOとして入ったのち公募で正規職員になるパターンが多い。UN(国連事務局)に競争試験で採用された場合は、2年間の試用契約の後 かつてはPermanent契約、現在のYPP試験ではcontinuing appointment契約に切り替わるため、そのままUNで勤務を継続するパターンが多い。公募で採用された方も多いが、その場合はミッドキャリア、もしくはそれ以上で転職したパターンが多い。コンサルタントから始めて短期契約を重ねて正規職員になる人も、この174人のなかでは少ないが実在する。

 

<国際機関を目指すきっかけ>

外国で生まれ育ち、幼いころから国際的な仕事に就きたいと思っていたという人が一定数いる一方で、幼いころの教育(長崎や広島の平和教育、宗教等)、学生時代の旅行や留学を通じ、戦争と平和、貧困や経済格差といった地球規模の問題に触れて国際協力、開発の道を目指すようになった人も多い。大学・大学院時代にははっきりと国際機関で働くことを意識し、競争試験やJPO、海外協力隊などのキャリアパスを志向する人もあれば、新聞記者、研究者、公務員として働き始めてから、縁があって国際機関を目指すことになった人もいる。共通しているのははじめから国際機関を目指していなくとも、高校・大学時代にはすでに公益のため、社会のため、人の役に立ちたいと思って職業選択をしているところであろう。

 

<必要な経験とスキル>

インタビューでは地球規模のグローバルな課題に取り組もうと考えている若者へのメッセージを求めており、その文脈で必要な経験やスキルが語られていることがある。これは必ずしもエントリーレベルや若者だけでなく、すでに国際機関で勤務している人たちにも求められるものである。

 

経験:(回答数42)

スキル:(回答数36)

専門性の追求:

国際機関で勤務するにあたり、「専門性」の重要性はよく説かれている。国際機関の空席広告にも求められる学歴、職歴は明記されており、高い専門性が求められている。学生時代に国際協力の道を意識し始めた場合には、多くの人がその時点で国際法、環境、人権、開発というように自分の関心分野を絞って大学や大学院の専攻を決めている。最初から国際機関勤務を目指していなかった人も、国土交通省や建設省、気象庁の国家公務員として、また検事やジャーナリストとしてのキャリアを積んでいくなかで、国際機関でキャリアを生かせるポストに出会って転職している。

多くの人が述べているのは「何がしたいのか、どのように貢献できるのか」を明確にすることの大切さである。国際機関で働くことは最終目的ではなく、自分の興味のある分野を専門とし、その専門分野での経験を積んでいくなかで自分の専門性を生かせる職場のひとつとして国際機関を捉えるべきである、というのだ。自分でキャリアパスを考え、次のポストの空席広告へ応募し続けていかなければならないため、「何がしたいのか、どのように貢献できるのか」、という問いは実際に国際機関に入ってからも常についてまわるものである。ある意味似た経歴を持つ応募者のなかで抜きん出るためには、自分のやりたいことを明確にして整合性のあるキャリアを積むことや、説得力をもって自分の経験を語ることが必要であろう。

 

「専門性」とともに「幅広い視野」が語られているのも見逃せない。キャリアアップすればするほど、専門性や経験の「深さ」だけでなく「幅」も求められるようになる。例えば緊急事態だけではなく、紛争後の文脈や開発分野でも働いた経験があるとか、現地事務所だけではなくいくつもの紛争地域をカバーする地域事務所レベルで働いた経験があるなど、多様な経験をもつことが肝要であろう。

 

現場・フィールドでの経験

専門性と並んで多く語られるのが現場・フィールドでの経験である。職種にもよるが、平和構築のなかでも人道援助・開発の分野では実際の活動が行われる現場での経験が重視される。とくに途上国、紛争地域での経験があることは、本部で政策策定や現場支援を考える際に非常に重要であるし、マメンジメントレベルへ進む上でもあらゆる現場を経験していることは有利であるようだ。

 

語学力・コミュニケーション能力:

必要なスキルとして多く挙げられるのが英語、そして英語に加えてフランス語やスペイン語、アラビア語といった国連公用語ができること、誰とでも適切にコミュニケーションがとれる能力、プレゼンテーション能力や交渉能力である。英語を母国語とする人や複数の公用語を自在に操る人とともに働く職場では、高いコミュニケーション能力をもつことは必要不可欠である。

 

行動力やネットワーキング能力、そして、信頼と尊敬に基づいた人間関係を創るための人間力も必要なスキルとして挙げられている。

 

<国際機関で働くことの魅力>

インタビューでは、官僚組織であるため意思決定に時間がかかったり非効率的であったり、政治的な思惑で思っているよう仕事が進まない、また自分でポストを探して動くため思うようにキャリアパスが描けないなど、国際機関で働くことの問題点も挙げられている。にもかかわらず、実際に国際機関で働き始めた職員は、自分の職務や勤務先のどのようなところに魅力を感じて国際機関での勤務を続けるのであろうか。

限られた回答数ではあるが、多くの職員が多様性、多文化環境のなかで働くことに魅力を感じている。同時に国連憲章や子供の権利、難民の保護など、各機関・組織のマンデートに共感し、仕事の内容にやりがいを感じている人も多い。異なる価値観を持つ人々と一丸となってひとつの目標にむけて向かっていけるところをよしとしている職員像が浮かびあがってくる。またどうしたら戦争のない世界がつくれるのか、貧困のない、平等な世界を築けるのかといった「理想」を同僚や上司と語り、その実現のために働けることに魅力を感じている職員も多い。そもそも国際協力の道を目指した初心を忘れず、自分の価値観に沿った職場で働けることに幸せを感じられている、ということだろう。

<国際機関で働き続けていくために>

国際機関に採用されても、その後は自分でキャリアを考え、空席広告に応募し、ポストに選ばれて異動していかなくてはならない。与えられた仕事で結果を出すことはもちろん、自分に何が求められているかを考え、置かれている状況を的確に判断し、積極的に動いてくことが欠かせない。そのためには人脈も重要で、同僚や上司、周りの人たちと助け合いながら良好な関係を築くことが、情報の入手や交換につながり、仕事をまわしやすくし、ときに次のキャリアステップに繋がっていく。

上記に加えて、インタビューからは以下のような、国際機関で働き続けるための素質やスキルのトレンドが浮かび上がってくる:

  • 自分の価値観と仕事の方向性が合っている。インタビューで述べられている原体験から当時の現職までの流れに一貫性があり、仕事のやりがいを感じている人が多い。自分の軸を持ち、やりたいこと、いかに貢献できるかと自問しているから、ブレがなく、迷い悩んだとしても初心にたちかえることができる。
  • 理想と現実のバランスをとることができ、予定通りに進まなくともそこから立ち直れる耐性と柔軟性を持っている。(第71回の高田実さんは自分のやりたいことを明確にする姿勢を通じて、そこに立ち返ることでチャンレジも乗り越えてきた)。
  • 出会いを大事にしており、上司や同僚、恩師など人とのつながりを大切にしている。
  • ストレスをためない。辛いことや難しいことがあっても、それを引きずらない。ワーク・ライフ・バランスをとりやすい職場だと述べている職員も多いが、困難な赴任地でも自分なりの息抜きの方法を見つけることができる (第158回の本田容子さん、第170回の高尾裕香さんは自由に出歩けないアフガニスタンでも体を動かすことを大事にしていた。第84回の井上健さんはソマリアでラクダを飼い、それが現地の人との交流のきっかけにもなったそうである)
  • 現場が好きで、現地の人と一緒に楽しめる。あらゆるステークホルダーを巻き込んで仕事をすることが求められるので、現地で他の国際機関やNGOと協働し、現地の人を巻き込むことが職務遂行に欠かせない。(第140回の田中敏裕さんは協力隊時代バンドを結成し、ブータンでは国連舞踏団をつくり、結果UNDP内のGlobal Staff Awardを受賞している)

 

<国際協力の分野のキャリアパス>

国際協力・平和構築分野での仕事は国連だけに限らない。政府やNGO、アカデミックな世界でも貢献することは可能である。またキャリアパスも常に昇進していくリニアなものだけではなく、ときには同じレベルで異動し、職種を変更し、新しいことを学びながら成長してくパターンもある。この174人のなかにも、インタビューされた当時の国際機関でキャリアを積んでいる方のほかに、国際機関を一度退職し、その後また戻られた方(第25回池上清子さん、第35回須崎彰子さん)、同じ組織内で職種を変えた方(第132回山本直人さん、オペレーションからIT分野、組織作り分野へ)、NPOを立ち上げた方(第34回中村俊裕さん)や、大学で教える道を選び、教鞭をとりつつ国際機関と連携した活動を行っている方(第7回の井筒節さんや第164回の堤敦朗さん)もいる。174人すべての現職を追跡しているわけではないが、どんなキャリアパスであっても、専門性を活かして大きな社会課題のために貢献したい、という初心を貫徹されているに違いない。

 

<HPCによる追加インタビュー>

キャリアパスの具体例として、HPCでは今年度、かつて「国連職員NOW!」でインタビューを受けられた方のうち、4名の方に「国連フォーラム」でのインタビュー後のキャリアを中心にフォローアップ・インタビューを行った。4名のうち3名は外務省の「平和構築分野の人材育成のためのパイロット事業」第一期生である。それぞれの方がUNVやJPOとして国際機関に入ったのち、どのように平和構築分野でキャリアを構築していったのか、以前の記事と併せて読んでいただくと興味深い視座となるであろう。

 

原田宗彦氏(国連フォーラムインタビュー第47回:2007年7月23日http://www.unforum.org/unstaff/45.html

(HPCインタビュー:2021年1月22日)

鈴木惠理氏(国連フォーラムインタビュー第138回:2011年4月17日http://www.unforum.org/unstaff/138.html

(HPCインタビュー: 2021年1月6日)

荊尾遥氏(国連フォーラムインタビュー第154回:2013年10月31日http://www.unforum.org/unstaff/154.html

(HPCインタビュー: 2021年1月13日)

大井綾子(国連フォーラムインタビュー第108回:2009年7月15日 http://www.unforum.org/unstaff/108.html

(HPCインタビュー:2020年12月28日)

 

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